山口茶
農業や茶畑との意識的な
距離が、家庭の急須の有無に
関係していると思います
ダム湖周辺に広がる茶畑 中山間地にある宇部市小野地区で、お茶の栽培が始まったのは昭和27(1952)年の頃です。南隣の木田地区に厚東川(ことうがわ)を堰き止めたダムが昭和25年に完成し、小野地区を流れる厚東川の一部は小野湖として生まれ変わりダムの水瓶になりました。この時に、川沿いにあった水田が湖の底に水没することになったんです。水田を失った地区の農家は、新たな収入源となる作物を探さなければなりませんでした。川がダム湖になったことで、地区には湖面から湧き立つ朝霧が発生するようになり、これを利用すればよいお茶ができるのではないかと考えて、お茶栽培が地区で広がっていったそうです。そのような背景でスタートしたので、基本的には現在も水稲などとの兼業でお茶を栽培する農家がほとんどです。
進む農業の機械化・効率化 現在、小野茶業組合の組合員は4名ですが、最盛期には90名以上いました。一昔前までは茶葉を刈り取る際は、二人用の器具を用いるなど、人の力を要する作業が多くて、1戸の農家が世話できる農地はそれほど広くありませんでした。しかし現在は、機械化が進んで1戸で広範囲の茶畑を担えるようになっています。
今はお茶だけではなく、水稲も野菜にしても機械化が進んでいます。そのため昔に比べると労働自体は随分とラクになりましたよ。ただし設備費がかかるので、手掛ける栽培品目を絞り込んで経費節約と効率化を追求する必要があります。
農業を知る機会が大事 宇部市小野地区で採れたお茶は、山口茶としてJAが全国で販売活動を行っています。近年は水出し茶の需要が高まっているので、山口茶も水出し茶専用の茶葉を販売しています。以前、地元の小中学校へ水出し茶専用の茶葉を配ったらとても好評でしたね。最近は急須を持っていない家庭も増えています。でも、農業や茶畑が近い距離にあるこの地区ではそうでもないんですよ。地元の人が参加する年に一度のお茶まつりもありますし、茶畑を訪れお茶を知る機会が多いから、自然と「お茶を飲もう」という気持ちになるんじゃないかなと思います。
山口茶
宇部市小野地区にある小野湖の近くの小高い丘には、1か所での茶畑面積としては西日本最大級となる、約70haもの広大な茶畑「藤河内茶園」が広がります。昼夜の寒暖差と冬に小野湖から湧き上がる濃い霧がお茶の栽培に適した環境とされ、ほど良い苦みと渋みを併せ持つお茶が育ちます。生産者の藤田さんは「僕は小野で採れたお茶に慣れているので、渋みのあるお茶が好みです。流行りの味だけではなく、産地によってさまざまな個性を持つ方が面白いと思います」と語ります。