ゆめのか
地域農業の発展に欠かせないのは
県やJAなどの関係者との
チームワークです
私の圃場がある長崎市田手原町は、元々は長崎県のブランド果実である茂木びわの産地です。高校卒業後に就農した40年ほど前は、びわとみかんを手掛けていました。しかし、みかんは昭和40年代に価格が全国で大暴落し、びわもバブルが弾けてからは会食などの需要が激減し伸び悩みに直面したんです。農業経営の改変を迫られる中で、以前から少し育てていたいちごの「とよのか」は順調でした。そこで、地域の農家40軒ほどが集まり、本格的に始めようと決意していちごを軸にするようになったんです。
生産量も売り上げも伸びていたのですが、2000年代から福岡県が「あまおう」に力を入れ始め、生産を同県内に限定したブランド化で人気を集めると、九州のその他のいちご農家は厳しい状況となりました。「あまおう」の一人勝ちで、色んな品種を試したのですが勝負にならなかったんです。品種の違いを栽培技術で埋めようと、みんなで頑張ったのですが売り上げは伸びませんでしたね。しかし、約5年前に「ゆめのか」に出会ってから状況は好転。一時に比べて収入は1.5倍となり、新規就農者も目立つようになりました。
農家の安心が食卓を豊かに
若い人が参入してくれると、明るくなって産地や生産部会などの雰囲気が全然変わるんですよ。今年は造船業や飲食業から転職してきた人がいます。彼らはやる気もあって、我々からすると無駄に元気でね、面白いですよ(笑)。
2019年からすべての農産物が対象となる収入保険が始まるなど、最近は昔に比べて助成制度や後継者育成制度が整ってきました。不測の事態が起こっても農業経営が継続できるように国が動いてくれると、後継者も増えて我々も安心して生産活動に打ち込めます。国内農業の安定と発展は日本の食に直結します。例えば、近年の輸入量の減少により、じゃがいもの値段は高騰し、国民生活にも影響を与えています。
我々農家は農業関係者と一緒になって地域農業を守るのが課題です。今、当地のいちご農家は順調ですが、今に満足するだけではなく、次を見据えた新しい品種を探さなければいけません。同じ「ゆめのか」の苗にしても、毎年少しずつ性質が変わって行きます。だから、全農、JAの営農指導員や県の普及指導員、研究員らとチームプレーで、市場の動向を掴み地域農業が発展するように知恵を絞って進む必要があるんですよ。
ゆめのか
「みんなの夢が叶う美味しいいちご」という意味を込めて名付けられた「ゆめのか」は、真っ赤な円錐形で果肉は柔らかく、甘みと酸味のバランスの良さに定評があります。野口さんは「長崎県の栽培環境に適した品種です。糖度は通常で11~12度、高いものは15度にもなります。特に土耕で栽培したものは、よく味が乗りますね」と語ります。