甘くて美味しい「カステラ」がお土産の定番として知られる長崎県は、全国的にも砂糖の消費量が多いと言われます。甘い味付けが長崎県の食文化の特徴の一つで、例えば皿うどんのあんや長崎天ぷらの衣にも、砂糖が用いられています。料理や菓子で甘みが足りないことを、長崎県の方言では「長崎の遠か(ながさきのとおか)」と表現するそうです。甘みを長崎に例えるほど、甘みの基となる砂糖が食文化に深く根付いたことが分かります。
そもそも、日本に砂糖が伝来したのは奈良時代で当時は貴重な薬種でした。その後、16世紀半ばの戦国時代に九州各地で南蛮貿易が始まると、オランダやポルトガルの南蛮船から中国産の砂糖が安定的に供給されるようになり、九州地方で砂糖が広まります。鎖国政策の江戸時代でも海外貿易が公式に許された長崎市の出島では、引き続き砂糖が海外から持ち込まれました。江戸時代の初期は南蛮船にとって、砂糖は船の積み荷のバランスを取るバラスト(重り)商品で、それほど重視されていませんでした。しかし時が進むにつれて日本での需要が増え、主要な商品の一つとして扱われるようになったそうです。荷揚げの際にこぼれた砂糖は「こぼれもの」として、運搬作業をする人達が自由に持ち帰ることができたそうで、九州の中でも特に長崎では、庶民の間でも砂糖を使った食文化が色濃くなりました。そのような歴史背景の中、「カステラ」などの長崎ならではの砂糖を用いた菓子も定着したのです。