岡山県中西部に位置する高梁市成羽町の吹屋地区。標高約500mの山間にある小さな盆地に「赤い街並み」が忽然と現れます。当地は江戸時代から銅山開発で栄えた場所で、江戸後期になると、銅の副産物である弁柄の製造に国内で初めて成功。吹屋の弁柄は赤色顔料として日本各地で利用されるようになりました。染物はもちろんのこと、焼いても鮮やかな赤色が出るクオリティの高さから吹屋の弁柄は需要が拡大。有田焼や九谷焼の焼き物や、輪島の赤漆器などでも重宝されました。
弁柄の好景気に沸いた当地の商家たちは、地域の財産である弁柄を全面に押し出した街のデザインを開始します。山陰地方から石州大工(宮大工)を呼び寄せ、桜やヒノキ、杉、ケヤキ、栗などの高級木材を使用して住居を建築。木材や壁には防虫効果もある弁柄を塗り込み、屋根には赤茶色が印象的な石州瓦を用いるなど、現在に残る「赤い街並み」を形成していきました。
当地の弁柄は昭和初期までは大変な需要がありましたが、第二次世界大戦後は安価な化学工業製の赤色顔料が出回るようになり、1972年には銅山も閉山しました。街と建物の老朽化が懸念されましたが、有志が街並みの保存活動を開始。1977年には国の伝統的建造物群保存地区に指定され、2020年6月19日には日本遺産に認定されました。保存地区の「吹屋ふるさと村」には、重要文化財の旧家をはじめ当地の歴史を学ぶ資料館やギャラリー、ゲストハウス、食堂などが建ち並び、弁柄の鮮やかな赤色を今に伝えています。