全農
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 滋賀県近江八幡市の対岸から約1.5kmの琵琶湖の沖合にある「沖島」は、日本でただ一つの淡水湖に浮かぶ有人島です。面積1.51km2の小さな島には2023年現在、約220人が暮らしています。近年は離島という特殊な環境から、人口減少や高齢化などが進み、島の継承が大きな課題です。そのような現状を変えようと、約10年前から沖島では島の方言で「戻ってきて、帰ってきて」の意味の「もんてきて」を合言葉に、島の魅力を島外に発信する活動を本格的に始め、人々の注目と関心を集めるようになります。

ハードからソフトへのシフト ハードからソフトへのシフト

 おおよそ1,600万年前までは、東日本の多くが海底に沈んでいました。長野盆地の場所も海の底でしたが、約1,300万年前になると、まず盆地の東側が隆起して陸地となります。そしてしばらくすると、岐阜県と長野県の県境に位置する北アルプス(飛騨山脈)も隆起。このあと長野県の松本市周辺から北側は、日本海に面した大きな湾を形成しました。

島の魅力を全力でPR 島の魅力を全力でPR

 女性会の役員を中心に「島の中で、島の人が、島の将来を考えて、どのようにしていくのが良いか?」というテーマで振興プロジェクトを考えるようになります。まず真っ先に思いついたのが「沖島の周知」です。沖島にしかない魅力を知ってもらおうと、観光パンフレットを制作し、島野菜を使ったお弁当を考案。さらに、未利用船を利用したクルーズを企画し、観光誘致に力を入れました。

徐々に変化する島内 徐々に変化する島内

 その他にも、島めぐりや沖島のお寺体験、ダイビングなど、島の暮らしを肌で感じられるツアーをいくつも企画しました。そのような活動の中、以前は島内の喫茶店は1軒が営業しているかどうかの状態でしたが、気が付けば3軒に増加。民泊も開業しました。さらには、島内で湖魚と島野菜のPRを目的にしたマルシェを開催。「デザインは可愛く、今どきなマルシェ」をテーマにし、湖魚を使った料理を提供しているレストランに出店を呼びかけました。これにより湖魚を知らない人にPRできただけでなく、島民も湖魚の新しい食べ方の発見になったそうです。マルシェには300~500人が来島。このような活動により、観光客は2013年の12,800人から2019年には倍の25,500人に増えました。

新たに集う若い力 新たに集う若い力

 沖島での大きな変化は移住者が現れたことです。20代、30代を中心とする約5名がこの10年で移住しました。例えば、地域おこし協力隊で沖島に赴任した3人中2人は、活動期間が終わった後も住み続けています。新しいマルシェの企画には、元協力隊の人の力が欠かせなかったといいます。他にも、漁師見習いを経て2023年から漁師で1本立ちをし、近江八幡市内の島外との2拠点生活を始めた男性もいます。また島内でも、沖島の若い人が漁師となるなど、次世代の育成が芽吹き始めました。

もんてきた若者たち もんてきた若者たち

 一連の活動は島を出た30、40代の若い男性にも変化を生みました。自分達の生まれ育った島で新しい動きを見聞きし、「俺たちの島やん!」と故郷への意識を強くした人達が、漁協の組合員となり島の活動に参加しています。また、島を出た若い女性らも、新しく企画したマルシェの情報を知り、「あの島でこんなことができるなんて」と驚き、協議会のSNSをフォローするなど島への関心を高めたようです。

今後の活動と島の未来 今後の活動と島の未来

 現在の沖島で一番の問題は空き家対策だといいます。離島では空き家の取り壊しにもかなりの費用が掛かります。また、家が密集する沖島特有の問題で建築基準法に引っ掛かり建て替えが難しい状況です。空き家は国も今後は課税対象になるため、負の財産となりかねない。しかし、安易に手放すと、琵琶湖の湖岸で土地を借りられる数少ない場所として乱開発が進む可能性もあります。そうなると沖島の良さが失われかねません。沖島の良さを残しながら、沖島が好きな人が心地よく暮らせる場所を守る道を模索していくと協議会のメンバーは語ります。

「日本に一つしかない」を継承する 「日本に一つしかない」を継承する

 現在、協議会の中で中心的に動いているのは私を含めて3人で、島民はもちろん行政や大学などの協力を得ながら活動します。3人とも同じ年に結婚して島外からお嫁さんとして来島した元・余所者で、外から見た沖島の良さが分かる点は共通しています。私達3人の子供達は島の人達に育ててもらったようなものです。余所者を受け入れてくれた島の人達に恩返しをしたいという思いでやっています。日本で一番はたくさんあるけど、日本に一つしかないというのは、そんなにないと思うんです。スマートな暮らしの対極にあるかもしれませんが、不便でも良いものが沖島にはたくさんあるんですよ。近畿の水がめである琵琶湖の水質の浄化に漁師は欠かせない存在だという論文も読んだことがあります。沖島とその暮らしは、継承していく価値のあるものだと思っています。