全農
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生産者の声
川中島白桃
田中 慶太さん(65歳)
長野県長野市
桃、りんご生産者

全国ブランドの
発祥の地だからこそ
一番美味しい桃を
つくり続けたいんです

 就農して長野市川中島地区で桃をつくり始めてから20年になります。数年前からつくり手の都合ではなく桃の樹の生理を考える栽培に切り替えました。手間はかかりますが、桃の樹が今まで以上に元気になり、実も大きく美味しくなる手ごたえを得ています。考え方を変える大きなきっかけは、2019年の台風19号による水害です。地区では河川敷にある農地が流されたのをはじめ、桃栽培も大きな被害を受けました。特に、暴風雨により蔓延した桃の感染症が大きな問題となります。せん孔細菌病という外皮に黒い斑点が出る病気で、味に影響はないものの売り物にならないんですよ。その年から地区の桃部会のまとめ役をしていた私は、この病気に一番詳しい先生がいる長野県須坂市の果樹試験場へ飛んでいきました。病斑のある枝を切除するのが一番大事と言われ、地区の生産者にも伝え、自身も懸命に実践しました。

樹が元気だから実も輝く  従来通りに農薬による防除はしていたんですが、感染症はなかなか治まらず、とにかく切除を続けました。先生も年に2回、当地で勉強会を開いてくれて、数年前にようやく元に戻ったんです。感染症と向き合う中で気が付いたのは、若い樹より古い樹の方が感染率が高いこと。やはり元気がないとやられやすいんですよ。また先生から「樹は美味しい実を人間に食べてもらうために実をつけるのではない。種を保存するために実をつける」と聞かされたことも頭に残りました。それであれば樹のことを第一に、元気にストレスなく過ごせるようにすれば良いのではないかと考え、その方策を探しました。それで始めたのが、樹の根元に除草剤を用いないこと、根元をかん水すること、そして大きく厚みのある葉っぱをたくさん茂らせる方法などです。
 今では、20年近くなる老木でも良い実をつけてくれるようになりました。樹はところどころ傷んでいますが、幹も太いし若い樹に比べると、実も甘いだけではなく酸味などもミックスし味わいが深いんですよ。土壌にすごく良い菌や微生物がたくさんいるので、土も柔らかく根の張りも良い。根が土壌から栄養をどんどん吸い上げて、葉っぱも大きく数も増えたので樹がどんどん元気になりました。

発祥地の農家の思い  現在、全国でつくられる川中島白桃は、ここ川中島地区で誕生しました。それから約30年前の間に先輩方が一所懸命に栽培方法を確立し、桃の重要産地として知られるようになったんです。これを継承していく、後世に伝えていくのも大事なことですよ。最近は当地区でも県やJAが力を入れるぶどう栽培を選ぶ生産者も増えています。正直、桃の部会長としては忸怩たる思いがあるんです。だから、より良い桃を生産する姿を見せて、桃でブドウより儲かるように頑張る(笑)。そうすれば、桃をつくる人も増えるでしょうからね。


川中島白桃

 桃の王様とも称される人気品種。8月のお盆後に出荷される晩生種で、果実は300g程度の大玉で、しっかりとした肉質で心地よい食感が特徴です。長野市川中島地区で誕生し、現在では全国各地の産地で栽培されており、桃の総生産量の約1割以上を占める品種に成長しています。生産者の田中さんは「もっと美味しくつくれるという気持ちで、毎年より良い方法を考えながら、手間暇を惜しまず世話をしています」と語ります。