全農
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生産者の声
天草黒牛
山下和弘さん(61歳)
  友美加さん(27歳)
天草市五和町
繁殖(牛・豚)、
果樹生産者

*和弘さん

輸入に頼る構造は
今こそ見直すべき

 我が家は子供が娘2人だったこともあり、妻とは「畜産は俺たちの代で終わりだね」と言っていたんです。しかし、なぜか分からないけど次女が継ぐと言ってくれて。それを聞いた時、口には出さないけど嬉しかったですね。彼女は家畜人工授精師の免許を持っていて、種付けも自分たちでできるようになりました。私は農業大学には果樹で行ったので、牛については娘の方がよく知っていますよ。
 正直、今は畜産農家にとって最悪の状況です。戦争や円安で飼料代が倍になりました。こんなのは経験がありません。北海道の酪農家なんてもっと凄いダメージを受けています。14万円していたホルスタインの子牛の値段が500円ですよ。それでも買い手がつかなくて持って帰って殺処分するそうです。若手の離農も増えていると聞きます。畜産は設備投資が大きいから新規就農はなかなか難しい。一度途絶えれば、生産を復活させるのは至難の業です。
 国はしっかりと危機感を持って、根本的な部分から考え直さないといけないと思います。現状、餌の多くを輸入に頼っていますが、国内でつくれるものはつくれるようにしないと。食品を見てもどうですか? 小麦をはじめいろんな品目の値段が上がっています。同じことですよ。

*友美加さん

自分の手で
最高の血統の牛をつくりたい

 我が家は祖父から3代続く農家です。牛舎のすぐそばに家があり、私にとって牛のいる生活は小さな頃からの当たり前でした。牛の世話の手伝いが楽しくて、特に分娩で生命が誕生する瞬間を初めて見た時の感動は今でも覚えています。親から「継いでくれ」とは言われたことはありませんでしたが、ごく自然に就農する道を選びました。
 農業大学を卒業後に、全国和牛共進会で内閣総理大臣賞の受賞歴を持つ方の農場で働いた1年間は、とても学びの多い時間でした。宮崎県は畜産にとても力を入れている県で、牛の飼い方や技術などが随分と進んでいると感じましたね。子牛は日齢280~300日で出荷するのですが、その時の体のサイズがまるで違って大きいんです。そこで学んだ多くを実家に戻ってから実践しています。
 現在は約50頭を飼育しているのですが、将来的に80頭には増頭したいと考えています。50頭ではまだまだ物足りないんですよ。また、全国にたくさんいる種牛の中から良い牛を買って、良い血統の牛を我が家の牛舎でつくるというのが大きな目標です。今は戦争や円安の影響で餌代が高騰し、子牛の値段も思うようにいかないですが、あと何年かしたら良くなると信じて牛飼いとしての技術を磨いていきます。


天草黒牛

 天草地方のブランド牛で、柔らかい肉質とあっさりとした脂が特徴です。子牛の期間は主に天草産の牧草や稲わら、飼料用稲などを食べて育ちます。繁殖農家が手掛けた子牛は、地元で天草黒牛として肥育される他、九州の佐賀牛や近畿の松阪牛、近江牛などの肥育農家に買われていきます。和弘さんは「海風の吹く環境で、牛も餌となる牧草も良く育つんですよ」と語ります。