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不退の行法 お水取り

 春招きの風物詩として知られ、通称「お水取り」と呼ばれる東大寺の修二会(しゅにえ)は、1270年の間、日本で最も長く、絶えることなく続いてきた仏教儀式です。国宝である二月堂で毎年3月1日から14日まで、練行衆と呼ばれる11人の僧侶が旧年の穢れを祓う懺悔と、新年の国家安寧や五穀豊穣、疫病退散などを祈ります。クライマックスは12日深夜に二月堂の下にある湧水を汲む「お水取り」の儀式で、この水は本尊に供えられます。
 関西では修二会を「お松明」と呼ぶこともあります。これは闇夜に僧侶が大きな松明を持って舞台を走り抜ける姿や、舞台の欄干に燃え盛る松明が掲げられる様子から来ています。奈良時代から変わらない闇と光が織りなす幻想的な光景が広がる中、例年大勢の参拝客が祈りを捧げます。

770年以上続く松明の寄進

 行事に欠かせないこの松明は、名張市赤目町一ノ井にある松明講(講:集団や会合)が、770年以上前から奉納を続けています。講に参加する地域住民らは地元の極楽寺に集い、毎年2月11日に近隣の山から樹齢30年程度の桧を切り出し、松明に加工して東大寺に運びます。
 極楽寺は鎌倉時代の初めにこの地で力を持った道観という長者により開創されたと伝わります。伝承されている松明の寄進は、道観が「永久に松明を二月堂に献上せよ」という遺言に始まるそうです。江戸時代の書物には「平家の焼き討ちに遭った東大寺に対し、道観は二月堂の再興に尽力した」と記されます。現在の名張市を含む伊賀国は、東大寺の荘園として開発が進んだ歴史があり、東大寺の再興には伊賀の山々から木材が切り出され利用されたと考えられています。
 一ノ井の住人である福嶋さん(伊賀よつぼし生産者)は、「地元で農業を続けられるからこういう伝統行事も継承されて、この地域が守られていくんだと思うんですよ」と語ります。

極楽寺

 真言宗の寺。松明木をつくる行事には講のメンバー以外にも、地元の高校や青年会議所など地域の人々が参加します。