サキホコレの品種開発は、2010(平成22)年に秋田県オリジナル品種「つぶぞろい」と、いもち病に強く食味の良い「中部132号」の交配から始まります。世代促進で増やした12万株・800系統の中から品種選抜を重ね、2018年に最も食味の良い「秋系821」が選ばれました。食味を徹底的に追求したサキホコレは、秋田米の最上位品種として位置付けられます。炊きあがりは白さと艶が際立ち、粒感のあるふっくらとした食感、上品な香り、噛むほどに広がる深い甘みが特徴です。
2022年のサキホコレの作付面積は800ha、生産量は4,000t。将来的には秋田米の約10%に相当する4万tまで増やす計画です。日本有数の米どころの秋田県は、米づくりに適した土壌を有し、土の肥沃度では新潟県と並んで国内トップクラス。豊富な水と昼夜の寒暖差の大きい盆地地形により、稲の生育が促進され美味しい秋田米がつくられます。この地力と気候が、米どころ秋田を支えているのです。
将来、JAグループ秋田ではサキホコレの栽培すべてを特別栽培米にする目標を持っています。特別栽培とは無機肥料(化学肥料)と農薬の使用量を慣行栽培より50%以上削減する栽培方法です。サキホコレが特別栽培米に移行する理由はいくつかありますが、一つは環境に配慮した持続可能な農業の推進です。水稲で使われる化学肥料の中には樹脂で被覆されているものがあり、肥効が持続するので作業の省力化に大きく貢献します。その一方で、肥料が溶けだした後に残る樹脂の一部が、川や海に流出し、全国でも課題となっています。その解決に向けた一つの方法として、サキホコレは樹脂を使用しない有機入り専用肥料の開発を進めています。
農業の現場でも地球温暖化に影響するとされる温室効果ガスは排出されます。農業分野における温室効果ガス排出量のうち、稲作が占める割合は約38%です(2019年)。この課題解決に向けた試みの一つが「飽水管理」です。端的に説明すると、田んぼの土壌をいつも湿潤状態に保つ水管理方法です。土壌を酸化状態に保つ効果があり、新たな資材の投入や労力をかけずに、温室効果ガス排出を抑制する効果が得られます。飽水管理と深水管理を組み合わせると太い茎を得られ、高品質で食味の良い米づくりの技術として、先人から受け継がれた伝統の水管理の方法でもあります。
サキホコレの栽培技術では、以上の他にも土壌中の窒素や代かきなどの土壌管理でも、きめ細やかな作業を要する方法が選択されています。サキホコレの栽培技術の確立と普及・定着を推進するJA全農あきた 米穀部の児玉徹参与は、「すべては持続可能な農業を実現するため、秋田米のすべての思いを詰め込んだ品種」と意気込みます。
「サキホコレの栽培は飽水管理をはじめ、秋田の米づくりの歴史の中で先人が磨いてきたさまざまな技術を組み合わせています。サキホコレは育てるのに手間がかかる栽培管理・技術も必要だからこそ、小規模農家の強みも生きてきます。日本農業の将来のために、多様な形態の農家が輝くような秋田米を牽引していく品種がようやく出て来たんですよ」(児玉)。