AGRIFUTURE_Vol.45
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P.03工藤大輔さん(33歳)青森県黒石市りんご生産者農家を始める時、地元のエースになろうと心に誓いました。周囲にそう思われるために自分の技術を高め、親父を超えていきたいんです 青森県のリンゴと言えば国内だけではなく海外でも知られたブランドです。僕達の農園がある津軽地方の中南部を管区とするJA津軽みらいでも、販売金額の約7割をリンゴが占める主力産物です。生産者たちのリンゴに対する想いはとても強いですね。一つでも良い果実を栽培しようと真剣で、作業の方法を巡って激しく議論を交わすこともよくあります。 特に、剪定作業の仕方はよく話題になります。リンゴ栽培は秋の収穫を終えると、春までは特に作業がないと思われる方も多いかもしれません。しかし冬から春の間には、剪定といって、樹木の枝を切り、形を整え、来期の実の付き方を良くするための重要な作業が待っています。僕などは剪定がもっとも難しく骨の折れる作業だと思います。 僕は就農して数年間は、70歳を超える方に師事して剪定を学びました。この地域も冬場は1メートル以上の雪が積もるのですが、師匠はかんじきも履かずに作業をしておられました。熟練の生産者は、僕らが圧倒されるくらい気持ちも身体も元気です。こういう先輩達の情熱が、青森・津軽のリンゴを育ててくれたんだなと思いますね。 現在は、師匠から学んだ基礎に沿いながら、自分の知識や経験を加えつつ、自分なりの感性で技術を磨いています。自分達の剪定をしつつ、作業の谷間を見て、同じ集落の農家の先輩や若手の仲間を中心に剪定組合を作り、頼まれた場所に手伝いに行くのですが、それも良い経験となっています。 同じように地域で学んでも、剪定作業は十人十色で個性が出てきます。それは5月から6月にかけて行う実すぐり(摘花・摘果)作業でも同じです。親父には「これは違うぞ」とまだまだ怒られるんですよ。僕が一通り終えた後で、親父がこっそり修正することもありますね。僕としては、後5年で自分が先頭に立ってやれるように、しっかりと技術を確立させたいという気持ちです。周囲では親が亡くなって作業できなくなった家もありますからね。親父もいつまでも元気に作業できるわけではありませんから、いつでも農園を背負えるよう、覚悟を決めてりんごと向き合うようにしています。 この地域でも将来的には担い手が減少し、空いてくる農園も増えてくると思います。その状態を防ぐためにも、30代から40代の若い世代がより若い世代へ「農家って楽しそうだな」「農業ってやりがいがあるな」と思ってもらえる環境作りをしていきたいと思っています。今やらなければ遅いと思うんです。近年は、生産仲間で自分達のリンゴを色々な町に売りに行ったりもしています。生活者と直接話すことで、お互いのニーズが近づけると思いますし、僕たちの勉強にもなります。 先に述べた剪定組合に若手が集うのも、一つの農家の技術だけが上がって儲かるのではなく、例えば津軽地方の黒石地区で技術を共有し合ってブランド化や産地化を進め、みんなで潤っていこうという気持ちが地域の生産者全体にあるからだと感じます。 僕は農家を始める時、地元・黒石市浅瀬石のエースになろうと心に誓いました。みんなにそう思われるためには、まずは自分の技術であり、農業に対する意識をもっと高めないといけません。親父は「作業が丁寧で早い」と評判を得る人です。親父の顔を潰すようなことは絶対にしたくないですからね。親父から良いところをどんどん盗んで、やがては親父を越えて、地域を牽引していきたいですね。先輩達のりんごへの熱い想い十人十色の剪定作業個人ではなく地域で潤う
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